学校教育

定期テストをなくす・減らす取り組みが増えている理由

火曜日の中日新聞に、岐阜県の中学校で「定期テストをなくした」取り組みを紹介していましたね。

定期テストやめます、大垣の東中学校 校長が模索する「学ぶ力」の本質:中日新聞

岐阜県大垣市立東中学校が本年度、生徒の成績の評価基準となる定期テストを廃止した。代わりに始めたのが各教科の単元ごとに行う小テストで、筆...

「定期テストをなくす」
「定期テストを減らす」

というのは実は教育界では割と現在進行形のテーマで、全国の色々なところで、定期テストを廃止したり、数を減らしたりしています。有名なところというか走りは、東京都千代田区立麹町中学校ですね(下の本にくわしく)。

でも、教育界にふだん触れることがない人からすると、寝耳に水なテーマです。

以前やった家庭教育セミナーでも、鳥羽見寺子屋のある学区の名古屋市立守山西中が「定期テストを5回から4回に減らす」というのでその理由を学校で聞いてきて、親御さんたちにお話しさせてもらったのですが、結構驚かれていた方が多かった印象です。

それもそうですよね。

自分たちは「定期テスト」があるのが当たり前で、何ならそのために必死に勉強してきたのに! そんなんで子どもの勉強や受験は大丈夫なのか? と心配になってしまいますからね。

 

定期テストには大きな問題がある

そういった保護者さまの心配を直接、中学校の教頭先生にぶつけたわけなんですが、定期テストに対して「学習到達度を測るのに最適ではない」ということを非常に気にされていました。

聞いててなるほどなと。

そもそも学校で教える勉強は、文科省の定めた「学習指導要領」内で設計された「単元」があり、寺子屋でもデジタル教材eboardを使っていますが、基本的に「単元」ごとに学習して、その到達度を測る仕組みになっています。

でないと、どこが苦手で、どういったサポートをすればいいかわからないですよね?

実際、小学校では「単元」ごとのテストを行います。

それは、単元ごとの習熟度を測るためです。

でも、中学校や高校で行う定期テストは「単元」ではなく「期間」でテスト範囲が決まります
当然、教科によっては教えている単元の途中、ということもありますね(というかほぼそうですよね)。

これは、教える教師側からしても、教わる生徒側からしても、本当はメリットがあまりない。

たとえば、数学で、計算が得意だけど図形が苦手とかあるじゃないですか。
でも、定期テストだとその試験範囲をまたぐかまたがないか、あるかないかで定期テストの点数って大きく左右されますよね、よほど出来る子でない限り。

また、範囲の広い定期テストでは、普段の学習習慣がない子は特に「一夜漬け」「ヤマカン」に頼ることになります。

それだと、定期テストの結果だけ見ると、その子の実力(や努力)が見えにくくなるし、もっと言えば、「どこが得意で」「どこが苦手か」というのが見えなくなるんですね。

それって、子どもにとってプラスではないですよね?

でも、それが当たり前だったわけです。

「定期テスト」の見直しをする学校は、そこをおかしいと感じているんですね。

苦手なモノを見つけて、出来るようにしていくのが教育じゃないかと思うのですが、そういう作りになっていないんですよね。

むしろ、定期テストがあることで、先生は定期テストを作る労力がかかり、子どもの学習進捗がより見えなくなってしまっているのです。

 

定期テストをなくしても問題ない?

そもそも、学校教育の憲法ともいえる「学習指導要領」には、「定期テストをやれ」なんて書いてありません。

それなのに、日本全国で定期テストが実施されているし、その結果が、通知表や内申にも大きな影響を及ぼすとされています※。

※実際には定期テストだけで内申は決まらない

すると自然と、「テストのための勉強」になりますよね。

たしかに、

「テストがあるから勉強する」

という意見もありますが、実際は一夜漬けする子も多かったりするわけなんで、どうせ忘れてしまうのでは「テストがあるから勉強する」とは言えないですよね。

また、わからない単元があるのに、その改善をせずにテストに向かうのですから、テストの成績が伸びないのも当然です。

それに、テストのための勉強って、成績がよほどいい子以外は楽しくないですよ

楽しくなければ学びに対して能動的になることはなく、受け身になります。そうすると結果、成績も下がる。

なので、定期テストをやめた学校は、「定期テストがなくなったら勉強しなくなるのでは?」と考える親御さんの心配をよそに、成績がよくなる子が増えているそうです。
(下記は麹町中の話)

「定期テスト廃止」で成績が伸びる理由 公立中学が挑む教育改革(12)千代田区立麹町中学校・工藤勇一校長 Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン)

校長・工藤勇一氏の任期5年目となる2018年度も、千代田区立麹町中学校では次々と大きな改革が実行されている。その目玉の一つが「定期テストの廃止」だ。公立の中学でなぜ、定期テストが廃止されることになったのか。そして、校長が下したその決断に現場の教員は何を思い、どう動いたか。リアルタイムで進む「前代未聞の改革」の今を追った。

 

定期テストをやめても成績が上がるのは○○があるから

親御さん世代の常識でいけば、「定期テスト」や「受験」があるから勉強してきた、という人が多いと思います。
たしかに「テスト」という目標があるからこそ、集中できるというのもあります。

でも、それをあえて「期間」で区切らずに、「単元」で区切ったらどうでしょう?

実は、定期テストをやめた学校は「テストをやめる」とは言ってない

「単元テスト」に切り替えているだけです。

冷静に考えたら、当たり前といえば当たり前の話なんですよね。

理屈でいけば、子どもの「できない」部分に焦点を当てて、そこを改善していけばたいていは成績が上がるわけですから。

定期テストは、それをやらない。
いや、子どもに任せている(結果塾に任せている)ことになります。

ポジティブに考えれば、定期テストを廃止することは、学校が、子どものできない部分と向き合うという意思表示でもあるわけですよね。

だから、定期テストをなくしても、テストをなくすわけではなく、代わりに「小テスト」や「単元テスト」を増やすという学校がほとんどです。

単元別にやるので、子どもたちのどこができて、どこができないかが明確になるわけです。

(そのアフターフォローまでしてくれるかは先生次第ですが)

学期ごとの評価も、特に今はデータをコンピュータで入力するから、「この期間で」と設定すれば別に「○学期」の評価を数字にすることも難しくない。

むしろ、なんで定期テストなんてしてたんだろう?という気もしますが、コンピュータがなかった時代に、学期の評価を付けやすくするために定期テストが始まったと推測されます。

それだけ、これまでの学校の考え方が「子どもたちの学びをどうするか」ではなく、定期テストに向かって努力するような「ちゃんとした生徒になっているか」という視点を大事にしてきた表れなのかもしれませんね。

学業より「姿勢」というのはいかにも日本的ですが!

 

定期テストを廃止するもう一つの理由

「脱定期テスト」の流れが生まれたのは、先進的な取り組みをする学校があるからだけではありません。

コンピュータ・スマホ・インターネット・AIなどが生活の中に当たり前のように組み込まれる時代にあって、ただただ、おぼえたことをチェックするだけのテストで良いのか?

という風に、教育のあり方を変えないと、という流れがあるためです。

その最たる例が、小学校では一昨年、中学では昨年、高校では今年から適用された、現行の「学習指導要領」です。

メインとなるテーマは「生きる力」

ザックリしすぎたり、机上論過ぎると酷評する人もいますが、方向性としては理解できます。

どういうことかとザックリ言うと、実社会で「使える勉強」をしよう、ということですね。

具体的には、プログラミング、グループワーク、プレゼンテーションなど、実際の社会で必要とされる能力も問うようになって来ました。

(まあ、そうはいいつつも従来の「勉強」も残しつつなので、現場は大変だと思いますが)

あと、この学習指導要領では「カリキュラムマネジメント」を重視せよと語り、その中で、全体でPDCAサイクルを回すだけでなく、単元ごとにPDCAサイクルを回せ、としています。

そうなると、定期テストよりも単元テストで評価した方が都合がいい、というわけですね。

つまり、「時代の流れ」的に、定期テストは減少、廃止の流れにあるとも言えます。

ちなみに守山西中でも、年5回の定期テストが今年度から年4回になりました(2018年度までなんと年6回あった)。

実はコロナ禍のスタートである2020年度は4回になりましたが、それでも問題なかったんでしょうね。

まだ、守西中では「定期テストをなくす」とまでは決めていないそうですが、将来的にはそうなる可能性もゼロではないでしょうね。

 

まとめ:定期テストをなくすメリットとデメリット

とはいえ、結局子どもたちの勉強は日々の取り組みが大事になっているのは今もそう。

むしろ、定期テストの「価値」が下がり、「小テスト」「単元テスト」の価値が上がっているということなので、これまで以上に、毎日コツコツ勉強することが大事ってことですね。

これは昔から言われていることですけど、定期テストをなくす・減らす学校では特に重要になって来るよ、ということです。

まぁ、子どもたちからすると大変ですが、「学生」とは「学びに生きる者」と考えれば、いい変化と捉えて、お子様の尻を叩いてあげてください。

ただ、「定期テスト」がなくなる弊害として、「大きなテスト」の練習ができないので、入試はちょっと不安になりますね。

鳥羽見寺子屋家庭教育セミナー資料より

学校では「実力テスト」という業者のテストを使いますが、成績に加味しないテストを、どこまで生徒が頑張れるのか?

学習意欲が高い子はいいのですが、高くない多くの生徒は文字通り「実力を試すだけのテスト」で終わっているのが現状かな、と思うので、その分「模試」の重要性は高くなるのかなと思います。

模試を何回もやって、本番慣れしておかないと、入試で大コケ、なんてことが今まで以上に増えるかもしれないなと。

 

いずれにせよ、子どもたちの学びを応援するような流れが生まれているということなので、寺子屋は日々の勉強も、模試も両方面倒見ますが、やっぱり、日々(いやがる笑)子どもたちを学びに向かわせる仕事がこれまで以上に大事になるなと思いました。

また、定期テストをなくす・減らす取り組みはまだまだ「新しい取り組み」レベルなので、こういった前向きな変化が、もっと広まればいいなと思います。

  • この記事を書いた人

メンター 田中聖斗

名古屋市守山区で地域の学び舎『鳥羽見寺子屋』を主宰。塾に行けない・行きたくない子の学習指導や、子どもたちの学びを促す特別授業をやっています。子どもたちに寄りそうことを重視し、どんな子でも受け入れています。作家・企画屋・家庭教育アドバイザー・教材開発者です。花粉症の舌禍免疫中のため、現在は年中メガネです。

-学校教育