メンターのひとり言

現場で感じる「さんぽセル」問題の諸悪の根源はアレ

ニュースを見ていたら、ネットで騒がれている「さんぽセル」問題についてやっていました。

ワイドショーではなく夜のニュースにも出るようになり、末松文部科学大臣にまでコメントが求められるようになりましたが、とりあえず現状は何も変わらず。

ちなみに「さんぽセル」というのは、重いランドセルの負担を軽くしようと、現役小学生が考え、大学生が手伝い、あの、頭ほぐしで有名になった「悟空のきもち」の悟空のきもちTHE LABOが販売している商品で、現在使っているランドセルに、タイヤのついた長い持ち手をとりつけることで、キャリーケースのようにコロコロとひいて持っていくことができる発明品です。

この商品に対して、(たしかに見た目は滑稽に見えますが)

「楽をしちゃダメだ」
「手がふさがって危ない」
「心も体も鍛えないと」

とかなんとか、大人たち(たぶん現役の母親いないんじゃない?)批判が相次いだけど、開発者の小学生たちが大人な反論を見せたということで話題になっていたものですね。

「尾木ママ」で有名な元教諭の教育評論家、尾木直樹氏も、自身のブログで、

これらに一つひとつ丁寧に反論する子どもたちの能力の高さ、怯まない心に感心する尾木ママです♪

(中略)

アメリカでは体重の1割以内というガイドラインがあるのに日本では未だに、根性論でしょうか?

情け無い限りですね。

(尾木ママオフィシャルブログ「オギ♥ブロ」より)

と、アメリカの事情を引き合いに、日本がいかに遅れているかという話をしていました。

 

今のランドセル事情・・・

ちなみにここ、鳥羽見寺子屋は、学校帰りに寄る子もいるため、ランドセルを持ったままの子がやってきます(なにせ学校の隣のコミセンなので)。

注意ポイント

学校から家に直帰する場合、何かあった時は学校の保険がおりますが、コミセンに寄ったら保険対象外になるので、寺子屋では学校→コミセン→家でも保険が利く、スポーツ安全保険の加入をお勧めしています(ご相談下さい)。

保護者の方もみんな思ってますが、

今の子どもたちのランドセルって、メチャメチャ重いんですよね

学生時代に格闘技やっていた私が持っても、「重っ」って感じるくらい。

私が高校生の時でも、こんなにカバン重たくなかったぞと。

しかも今の子は、「水筒」持っていきますからね。中には1リットル以上のものも。

それプラス、図工なり音楽なり体育なりの荷物がプラスされ、今はそれにタブレットPCも追加。

いつも思うんですけど、もうね、大人たちはバカかなと。
(あ、口が悪い所が・・・)

 

むしろ、よく子どもたちはこんなのに堪えて学校に行くなといつも感心してますよ私は。

小学生で5~6kg、
中学生だと10kg
にもなり、16年前の2倍だそうです(下記動画)。

筋力のない体重20kgぐらいの子どもが5kgのランドセル+水筒などで1kg以上って、60kgの大人が15kgの荷物を毎日持つ以上に大変ですからね。

それで昨年度から、名古屋市教育委員会では「置き勉」オッケーとなったワケですが、現実問題、教科書ないと解けない宿題があったり、教科書から宿題を出したりするので、結果、持って帰るのは変わらなかったりするわけですよね。

なんなら宿題のためだけにタブレット(+アダプタ)持って帰ったりしてますからね。

結局、対症療法でしかないから、解決はしません。

 

悪気はない、だからタチが悪い

それにしても今の教科書って、昔よりもデカくて厚くて重いんです

「ゆとり教育」の反動で内容が増えているというのもありますが、ムダなカラー、ムダな写真・イラストが多過ぎです。

ムダが多い・・・

文字で済ませればいいのですが、「わかりやすく」したいとか、「思考力」を育てるために考えさせるようにしたいとか、そういう、大人たちの、それぞれの想い(欲望?)が積み重なった結果、どの教科書も、デカくて厚くて重くなっていくわけです。写真をキレイに見せる紙は重いので、キレイな教科書ですが、だからこそ、重い。

できるだけ軽くしよう、などとは考えません・・・いや、きっと考えて軽い紙とかを採用しているんだと思うけど、活字離れのヒドイ子どもたちでもわかりやすくしようと、それぞれがそれぞれにがんばった結果、子どもたちの負担が増えているワケですね。

こういうのって、結構大きな組織にありがちです。

みんな悪気はなく、それぞれベストを尽くしているんですけど、トータルで見ると、どっかにしわ寄せが来る、と。

このケースでは、「子どもたちの通学」ですよね。

そこまで考えて教科書作ってないよねと。

クソ重いランドセルは、「子どもたちのために」という大人たちが生みだした現象です。

注意ポイント

ランドセル自体はずっと企業努力で軽くしているんです!軽いと売れるし!
ただ、「タブレットが入る!」「A4も入る!」として大型化して、余計たくさん入るようになっています(悪循環)。

最近はコロナ禍の影響で、一気にデジタル化(EdTec)が進んで、名古屋市でタブレットPCが導入されましたけど、計画性があって導入したわけじゃないから、ただ増えただけ。

しかもPCだけじゃなくてアダプタも持って帰るので(しかも宿題しかできないクラスが多い)、「子どもたちのために」やってるはずが、結果的に荷物を重くして、子どもたちの体力を削っているわけですね。

そうなると、

「最近の子どもたちはひ弱だ」という意見も出てくるわけですが、

そういうこと言う人は、本当にこれを持ってみろと言いたいですね。

私は体育会系の部活にいましたけど、通学の荷物で鍛えてる人なんて聞いたことないですよ。

甲子園常連校の他校の生徒たちも、電車の中で荷物置いてましたし。

まぁ、元中日の荒木選手みたいに、13キロ自転車つま先立ちで通学してプロ野球選手になった人もいますけど、そういう心肺能力や脚力を鍛えるようにしているのならまだしも、ただの荷物を持った徒歩で、本当に体が鍛えられるのか謎。それなら、家が遠い子は体力がつくのかと(私は小学校から一番遠かったけど、ビリだった・・・)。

よくみんな、不登校にならずに通っていると感心しますよ私は。

そういう気持ちにならない方が逆に不思議です

子どもの立場になって考える習慣がないのでしょうか?

でもそれでは、子どもの心は動かせないですよね。

 

最初からアレしておけば、さんぽセル問題はなかった

基本、「減らす」って発想がないんですよね。大人たちに。

減らすためには何かを捨てるという手段もありますが、抜本的な改革をしないといけないからですね。

たとえば教科書も、実は結構前から「デジタル教科書」も存在するんですよ。

教科書の内容がいくら増えようが、デジタル化すれば「重さ」問題はない

タブレットに入れて、参照出来るようにしておけば、「さんぽセル」問題なんてそもそも生まれない

しかし、紙の教科書は無償だけど、デジタルは有料で別料金

しかも、学校単位とかではなく、一人単位でとられる。

一般消費者の目線からすると、(税金で)教科書代も払っているのに、さらに料金取るの?とも感じるでしょうが、教科書会社からしたら、教科書とは別で設計しているものだから、その分の費用を求めるのは当然、ということでしょう。

出版社なので、紙版とデジタル版を別物として販売して何がおかしいのと。

その人たちなりのベストを尽くした結果なのでしょう。

文科省も「特別な配慮が必要な子用」という位置づけなので、デジタル教科書が安くなるインセンティブも働かないし、なんならつい最近までデジタル教科書を使うのは半分までに、という立て付けになっていた。

これも、「視力低下を避けるため」と、大人たちが考えた、子どもたちのためのことではあるのですが、結果的に、タブレットPC+アダプタという1kg超の持ち物が増えただけ、という現実を生んでいるわけです。

デジタル教科書にまつわる体制がそんなものだから、結局、採用されないので、意味がない。

だから、デジタル教科書の採用は、1割未満とのこと(下記記事)。

デジタル教科書は2024年に無償化へ:教育とICT Online

GIGAスクール構想により、児童・生徒に1人1台のコンピューターが整備される。活用のカギは教科書のデジタル化にある。

てなわけで、国としてはデジタル教科書の無償化について動いていて、あと次の教科書改訂(小学校は2024年度)に間に合わせたいとのこと。

つまり、「あと少しの辛抱」ということですが、まだ2年ありますからね、「さんぽセル」購入を考えるのも自然です。

文科大臣も、そういうことを言えばよかったけど、たぶん知らないんでしょう。

国会答弁だったら官僚が用意してくれると思いますが、そうではなかったので、無難な回答にとどめ、「各自治体で~」と言ったのでしょうが、それって結局、自治体が金を払ってデジタル教科書を買うか、置き勉をOKにするかしかない。

今と何も変わらないですよね。

 

増やすことしか知らない大人たちへ

結局、根本にあるのはいずれも、大人たちの努力。

たぶんみんな、悪気はなかったんです。

「そもそも誰のための仕事か、どんな悪影響があるか」と考えずに、自分の仕事に注力した結果です。

でも、だからこそ、変えられなかったんです。

悪影響を考えないなら、現状を続けつつ、改良を加える方が楽ですからね。

言い方は悪いですが、「増やす」のは誰でも出来るんです

だから、増やすのは簡単です。

家電の説明書が分厚いのも同じ。
機能もそうですが、問題が起こるたび、注意事項ばかり増えていきます

私が大企業にいた時も、「増やす」ことが出来る人はたくさんいましたが、「減らせる」人はほとんどいませんでした。

そういう流れに堪えかね、さんぽセルのような具体的な提案をした人を叩くのは筋違いもいい所です。

なぜ、荷物を増やしている人は責められないのか??

それを、文句を言うだけでなく、代替案で示したさんぽセル開発者たちは素晴らしいとなぜ言えないのか?

 

減らすことには勇気も必要ですが、ダイソンとかアップルとか、説明書を簡素化したメーカーもあるわけです(そして総じて成功しています)。

日本では、「事なかれ主義」という言葉が辞書に載っているように、きちんと「これは本当に必要なのか?」と問い直す精神が疎んじられることが多いですが、今回のさんぽセル問題で、そういうアクションが、本当に困っている人たちにちゃんと評価され、現状を変えていけるんだ、という認識が広がって行けばいいなと思います。

個人的には、本当に必要なのか?と常に考えてしまうので、「ランドセルはもうやめたら?」と思いますけど😅、さすがにそれは・・・という人も多いですからね。

なんなら、タブレットも持ち歩くんなら、キャリーケースでよくない?って。

まぁ、それはそれで子どもたちが遊びそうですが笑。

結局、何したって子どもはオモチャにしちゃうんで、何を選択したって問題はなくなりませんよ。

いずれにしろ、叩いてる人はきっと「教科書をなくしたら?」って考えることの出来ない人が、叩いているんでしょうね。

それこそ教科書通りに。

  • この記事を書いた人

メンター 田中聖斗

名古屋市守山区で地域の学び舎『鳥羽見寺子屋』を主宰。塾に行けない・行きたくない子の学習指導や、子どもたちの学びを促す特別授業をやっています。子どもたちに寄りそうことを重視し、どんな子でも受け入れています。作家・企画屋・家庭教育アドバイザー・教材開発者です。花粉症の舌禍免疫中のため、現在は年中メガネです。

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